丸山重威 (関東学院教授)【いまを読む−若者のためのメディア論】(5)

 

 


 

 

Change! と Yes! We Can!

若者が加わった「憲法ひろば」の集会から(3)

そう、私たちもできるんだ! 「改憲問題」の現状と課題

         − 問題提起に代えて−

 

 

▼厳しい雇用情勢と混迷する政治情勢

 

 12月4日、東京新聞は社会面のトップで、18年間同じ派遣会社で勤めてきた54歳の労働者が、「今日で終わり」といきなり通告され、アパートからの退去を求められたケースを報じました。

 

 この日夜、日比谷野外音楽堂で開かれた実行委員会による非正社員の雇用保障と派遣法の改正を求める集会が開かれ、民主党、共産党、社民党、国民新党の野党4党が揃って、日弁連からも代表が挨拶、組合を結成したいすゞ自動車の労働者などが訴えました。

 

 4日夜のNHKテレビのニュースがこれを伝えましたし、5日の朝日新聞は、1面トップで「『派遣切るな』切実 2,000人が集会」と報じました。しかし、それにも拘わらず、厳しい経済情勢の中で、派遣などの非正規労働者を中心に、人員削減が進んでいます。

 

厚生労働省の11月28日まとめたでは、製造業を中心に「雇い止め」を予定され、職を失う非正規労働者は3万67人に上っていますし、新卒300人余の「内定取り消し」が出ています。

 

 「人員削減」は正社員にも及び、トヨタ、日産、ホンダ、キャノン、東芝、日本IBM、沖電気、大京、西友、レナウン、奥村組などで、数百人規模の削減が実施されたり計画されたりしています。

 

 また、職を求める人と、企業が人を求める人数を示す有効求人倍率は、10月は0.80で、100人の求職者に対し、求人は80人しかないことが示されています。

 

 内閣府の2008年版青少年白書によると、10代後半の派遣、契約社員、フリーターなど非正規雇用の割合は、この15年間で倍増し、72%に上っています。20−24歳でも43%、25−29歳で28%、30−34歳で26%で、未来を語るべき若者が希望を失いかねない状況にあることが明らかになっています。

 

 要らなくなったら、モノ同然に放り出され、住んでいた寮からも追い出されてしまう現実は、憲法の労働基本権や生存権が、まさに危機に直面していることが示されています。

 

 本当に、いきなりクビを切られ、寮から追い出される若者たちに私たちはどうしたらいいのでしょうか? 放って置いていいのでしょうか? 私たちは政治に何を、どう要求したらいいのでしょうか?

 

 こうしたことが起きている原因は、直接的には労働者派遣法の問題ですが、その背景にはすべてを「自己責任」として、労働法の規制が次第に緩和されてしまったことや、労働運動の衰退、そして自らの権利にすら気づかないように教育されてしまった「教育を受ける権利」にも関わっています。

 若者たちの「生きさせろ!」という要求は、個別の問題でも、相互に矛盾し合うものでもなく、日本国憲法の理念すべてに関わる「統合された要求」です。

 

 そして一方で、食料品などの値上がりで、10月の消費者物価は前年同月比で1.9%アップするなど、国民生活はますます苦しくなり、一方で社会保障予算が切りつめられて、医療制度も年金も、圧縮された予算の中で壊れてしまっています。

 

 にもかかわらず、給付金の支給、社会保障の削減、消費税増税など、与党の中でも議論が分かれるような政策が重なり、総選挙や政権の在り方をめぐって、政治は混迷の度を加えています。社会の閉塞感の中で、人々の不安は高まる一方です。

 

 政府は2兆円のカネを使って、1人1万2,000円、子供や高齢者には2万円を配ってくれると言います。しかし、この金額は、それが救急車たらい回しや生活保護切り捨ての根源になっている2億2,000万円の社会保障削減を8年間やめることができる金額です。

 

 一体、どうしたら、もっと落ち着いた、みんなが安らぎを感じられる社会を作ることができるのでしょう? もう一度、みんなで考えてみなければならないことだと思います。

 

▼生活と結びつけた運動を広げよう

 

そこで、いま一番大切なのは、みんなが自分の生活を振り返り、互いの状況を思いやりながら、語り合い、つながりあっていくことではないかと思えてなりません。既に問題は、例えば政権与党を支持するかしないかということではなく、問題を率直に見つめ、その解決のために協力し合えるかどうか、だと思うからです。

 

ことしの憲法運動の大きな特徴は、憲法9条の問題だけでなく、他の問題とのつながりをもって考えられるようになってきたことではなかったでしょうか。

 

 公的な対応を切り捨て、人間としての平等を保障するルールや「規制」を「緩和」し、すべてを民営化された市場の「競争」に委ねようとする「新自由主義」について、どうもおかしい、とみんなが考えるようになりましたし、小泉政権の「構造改革」でその問題点が明らかにされました。

 

 そして、非戦・非武装を決めた憲法9条と、表現の自由を決めた21条、健康で文化的な生活を保障する25条、教育を受ける権利の26条、労働基本権を保障する27条、28条などとのつながりが強く意識されました。

 

 そして、政治の行き詰まりの中で、さまざまな分野で国民の闘いが広がったのも今年の特徴だった気がします。貧困や、失業、不安定労働の問題で若者が立ち上がりましたし、高齢者も後期高齢者医療制度で地道な闘いを続けています。肥料、燃料の高騰と生産物価格の下落に、農業者や酪農家の闘いも広がりましたし、漁船は一斉休漁までしたのです。

 

 自立支援法の見直しを求めて障碍者が立ち上がり、保育所の民営化に反対する母親たちの運動も目立っていました。薬害問題の闘い、原爆被害、大空襲被害の補償を求める闘いも全国規模で広がっています。

 

 私たちの課題は、これらについて、日本国憲法に基づく日本の将来像を明らかにしつつ、様々な形で表れている憲法否定と実質改憲の動きを告発するとともに、人々のつながりを大事にした大きな連帯によって、日本にも「変革」のうねりを創っていくこと、そして具体的にできることを提案し、例えば「雇い止め」の若者支援など、緊急対策を実施していくことではないか、と思います。

 

 11月24日、東京・神田の教育会館で、「九条の会」の「第3回全国交流集会」が開かれ、約900人が集まりました。そこでの報告によると、全国各地の地域、職場、学園などの「九条の会」は7,294。

 

 集会では、「学生・青年」や「職場」の九条の会の分科会も開かれました。大江健三郎、奥平康弘氏ら呼び掛け人と、日本国際ボランティアセンター代表の谷山博史さんの報告のほか、首長による「宮城・憲法九条を守る首長の会」や、経営者による「札幌・グリーン九条の会」、教育関係者による「教育・子育て九条の会」などの活動も報告されました。

 

 集会では、@「一人ひとりの創意や地域の持ち味を大切にした取り組みで、憲法を生かす過半数の世論を」A「継続的・計画的に学習し、条文改悪も解釈による憲法破壊も許さない力を地域や職場に」B「思い切り対話の輪を広げ、引き続き小学校区単位の「会」の結成に意欲的な取り組みを。交流・協力のためのネットワークを」−という「訴え」が確認されました。

 

 オバマ氏が示した「チェンジ!」には、何かを「変えよう!」という意思と、自分たちが「変わろう!」という決意も秘められていると思います。彼がとりあえず大統領の権力を手にしたように、日本の政治の変革も、憲法九条の実現した世界も、話し合いによるお互いの理解と、幅広い連帯が作られる中で、必ず実現できるはずだと思います。

 

 米国民は「チェンジ」(変えよう!)の呼び掛けに「イエス・ウィ・キャン!」(そうだ、私たちはできるんだ!)と答えていました。いま、これだけ「平和」と「平等・公正」を求める声が、世界中に広がっているとき、私たちに求められているのは、「そう、私たちはできるんだ!」という確信と、それに基づく地道な行動ではないでしょうか。

 

 まず、手近なところから話し合いを始めようではありませんか。人間は必ず理解し合えるということに確信を持とうではありませんか。それが政治と社会を変える力になるはずです。

                          (了)